デマレージは船を止めた料金だった——フリータイムという考え方の来歴
語源は1640年代、意味は「船を留め置くこと」。日本の商法にも滞船料の条文が今もあり、その部分は1899年からほとんど手が入らないまま2019年に現代化された。コンテナ化で止まる対象が船から箱と土地に移り、言葉は船社ごとにばらけ、やがて米国では規制当局が「用語の透明性」を規則に書き込む。帆船時代から、2024年の請求書規則と、それを一部取り消した2025年の判決まで。
2024年10月23日公開 / 2026年9月 全面改稿
コンテナが港に着いてから何日かは、置いておいても料金がかからない。その無料期間をフリータイムと呼び、過ぎると1日いくらで課金が始まる。輸入ならデマレージ、箱を港の外へ持ち出したあとの超過ならデテンション。
実務ではそう説明される。ただ、この説明は結果だけを述べている。
なぜ「無料の期間」という概念が必要になったのか。デマレージという単語はどこから来たのか。答えは帆船の時代にあり、そして言葉が指す対象は、この四百年で二度乗り換えられている。
目次
- 1640年代、それは「船を止めること」だった
- 日本の商法に残る滞船料
- 箱が主語になった
- 同じ言葉が、別のものを指している
- 2016年の請願から、2020年の規則へ
- 港が「課金する」と言って、一度も課金しなかった
- 2022年、記載漏れは請求権を消す
- 2024年、期限が決まった——請求先の限定は2025年に消えた
1640年代、それは「船を止めること」だった
demurrage という語が英語に現れるのは1640年代である。
系統をたどると、古フランス語の demorage、その動詞形 demorer(滞在する、遅延する)に行き着き、さらに遡るとラテン語の demorari——de- と morari の合成で、morari は mora(停止、遅延)から来ている。つまり語の芯にあるのは「遅れ」そのものだ。
そして最初の意味は、料金ではなかった。当初の条件を超えて船が留め置かれること、その状態を指す言葉だった。料金の意味は後から加わっている。
順番が逆であることに注意したい。まず、船が止まっているという事実があった。次に、それを誰かが負担しなければならないという話になった。だから最初にできたのは料金表ではなく、期間の数え方である。
帆船で穀物や石炭を運ぶ契約を考えればわかりやすい。船主は船を貸し、傭船者はそこに貨物を積む。積み下ろしには日数がかかる。何日までは運賃に含み、それを超えたら1日あたりいくら払うのか。この線引きがなければ、船は港に縛られたまま次の航海に出られない。
停泊期間と、その超過に対する対価。これが原型である。
日本の商法に残る滞船料
この考え方は、日本の法律にも条文として入っている。しかも現役である。
商法第748条は航海傭船——船の全部または一部を目的とする運送契約——について定めていて、その第3項がこうなっている。
傭船者が船積期間の経過後に運送品の船積みをした場合には、運送人は、特約がないときであっても、相当な滞船料を請求することができる。
陸揚げの側にも同じ規定がある。第752条第3項。
荷受人が陸揚期間の経過後に運送品の陸揚げをした場合には、運送人は、特約がないときであっても、相当な滞船料を請求することができる。
特約がなくても請求できる、というのがこの条文の意味である。契約書に書き忘れていても、超過した分は払うことになる。船を止めた側が負担する、という原則がそこまで強いということだ。
そして、もうひとつ見ておきたい規定が748条の第2項にある。
この場合において、不可抗力によって船積みをすることができない期間は、船積期間に算入しない。
不可抗力で積めなかった日は、期間に数えない。ただしこの除外は、船積期間の定めはあるが始期を定めなかった場合の法定の起算方法に付いた規定で、あらゆる停泊期間に及ぶ一般原則ではない。それでも、期間を数える仕組みの中に、止まった理由を問う一行が置かれていたことは確かである。この一行は後の話に効いてくる。
なお、この条文がいまの平仮名・口語体になったのは最近である。商法及び国際海上物品運送法の一部を改正する法律(平成30年法律第29号)が2018年5月18日に成立、5月25日に公布され、2019年4月1日に施行された。法務省の説明によれば、商法の運送・海商法制は明治32年(1899年)の商法制定以来、実質的な見直しがほとんどされていなかった。
滞船料の考え方は、120年間ほとんど手を入れられずに条文の中で生き続け、平成の終わりにようやく現代の日本語になった。
箱が主語になった
コンテナ輸送が始まると、この語は乗り換えを起こす。
止まっているものが、船ではなくなったのだ。本船は着いたらすぐ次へ出ていく。港に残るのは箱であり、箱が占めているターミナルの土地である。そして箱は多くの場合、船社の資産だ。返ってこなければ次の貨物に使えない。
止めた対象が変わっても、料金の論理は同じものが使えた。何日までは無料で、それを超えたら1日いくら。かつて船に対して適用された数え方が、そのまま箱と土地に適用された。per diem——1日あたり——という呼び方が今も残っているのは、その名残である。
ここで、ひとつの語が二つの仕事を持つことになった。傭船契約の滞船料と、コンテナのデマレージ。日本語では前者を滞船料、後者をそのままデマレージと呼び分けることが多いが、英語では同じ demurrage である。
そして問題は、乗り換えた先で線引きが増えたことだった。ターミナルの中に置いてあるのか、外へ持ち出したのか。箱を返したのか、まだ持っているのか。それぞれに別の名前がつき、名前の境界は誰も統一しなかった。
同じ言葉が、別のものを指している
米国連邦海事委員会(FMC)が2020年に出した解釈規則には、こういう項目がある。46 CFR 545.5(e)、表題は Transparent terminology。
The Commission may consider in the reasonableness analysis the extent to which regulated entities have clearly defined the terms used in demurrage and detention practices and regulations, the accessibility of definitions, and the extent to which the definitions differ from how the terms are used in other contexts.
用語がきちんと定義されているか、定義にアクセスできるか、そして——その定義が他の文脈での使われ方とどれだけ違っているか。それを妥当性の判断材料にする、と当局が書いた。
規制の条文にこういう項目が入るのは、普通ではない。言葉の意味が事業者ごとにばらけていて、それが紛争の原因になっていた、という認定がなければ、こんな規定は生まれない。
同じ規則は、デマレージとデテンションをまとめてこう定義している。海上運送人、ターミナル運営者、あるいは海運仲介業者(NVOCCやフォワーダー)が、ターミナルのスペース(土地)またはコンテナの使用に関して課すあらゆる料金——per diem を含み、運賃は含まない。
つまり米国の規則は、線引きの内訳ではなく、外側で括った。中の呼び名は各社が決めていて、統一されていないからである。
2016年の請願から、2020年の規則へ
この規則ができるまでの経緯は、日付で追えるようになっている。
発端は2016年12月7日。Coalition for Fair Port Practices という荷主とトラック事業者の連合がFMCに請願を出した。港湾やターミナルの混雑で貨物を引き取れない、あるいは空コンテナを返せない状況でも課金が続く——そういう場合に何が不当な行為に当たるのかを規則で示してほしい、という趣旨である。
FMCは請願を受けて意見を募り、2日間の公聴会を開いた。そして2018年3月5日、調査に入ることを決める。Fact Finding No. 28、調査官は委員のRebecca F. Dye。
同年12月3日、調査官の認定が出た。調査の第1段階で、23社の船社と、44のターミナル運営者・港湾から資料が提出されている。
翌2019年9月17日、FMCは解釈規則の案を公表した(84 FR 48850)。そして最終規則は2020年5月18日に発効する。
規則の中心に置かれたのが incentive principle である。条文はこうなっている。
In assessing the reasonableness of demurrage and detention practices and regulations, the Commission will consider the extent to which demurrage and detention are serving their intended primary purposes as financial incentives to promote freight fluidity.
デマレージとデテンションの本来の目的は、貨物の流動性を促す金銭的なインセンティブである。だから妥当性は、それがその目的を果たしているかで測る、と。
そこから具体的な適用が枝分かれする。とくにはっきり書かれているのが空コンテナの返却についてで、
Absent extenuating circumstances, practices and regulations that provide for imposition of detention when it does not serve its incentivizing purposes, such as when empty containers cannot be returned, are likely to be found unreasonable.
返せない状況で課すデテンションは、不合理と認定される可能性が高い。
貨物を引き取れる状態になっているか(cargo availability)、引き取れることをどう通知しているか(notice of cargo availability)、そして政府機関による検査で止まっている場合の扱いも、判断材料として列挙されている。
ここで、商法748条2項を思い出したい。法定の起算方法に置かれた、不可抗力の期間は算入しないという一行である。適用場面は限られるが、期間を数える仕組みの中に「止まった理由を問う」発想が置かれていた。その発想を、コンテナの世界は一度失い、2020年に規制当局の解釈という形で取り戻したことになる。
港が「課金する」と言って、一度も課金しなかった
規則が出た直後、北米は歴史的な混雑に入る。この時期に起きたことは、この料金が本来インセンティブだという建前を、両方の方向から示している。
2021年10月25日、ロサンゼルス港とロングビーチ港が Container Excess Dwell Fee を発表した。ターミナルに長く滞留しているコンテナについて、船社に対して課金するという内容である。荷主やトラック事業者ではなく、船社に払わせる設計だった。
両港の港湾委員会は10月29日にこの暫定制度を承認し、課金は11月15日に始まるとされた。対象はトラック搬出待ちで9日以上、鉄道で6日以上滞留したコンテナ。料率は1本100ドルから、1日ごとに100ドル刻みで加算していく設計だった。そして、繰り返し延期された。11月22日、11月29日、12月6日、12月13日——両港は数週間ごとに「今回も見送る」と発表し続け、2022年12月16日に発動しないまま終えると発表、2023年1月24日付で制度が終了した。
一度も請求されていない。
両港の説明では、発表から滞留貨物は92%減っていた。課金するという発表それ自体が、片づける動機になったということである。デマレージは料金ではなく状態を指す言葉から始まった、という語源の話に、これはよく響く。
2022年、記載漏れは請求権を消す
しかし混雑の中で起きたことのもう半分は、請求のほうだった。滞留が長引くほど請求は膨らみ、引き取れなかった側にも請求書が届く。誰にどんな根拠で請求されているのかが分からない、という声が米国議会に届く。
2022年6月16日、Ocean Shipping Reform Act of 2022 が成立した。
この法律が加えたのは、料金の上限ではない。請求書の書き方である。46 U.S.C. 41104(d)(2) は、デマレージまたはデテンションの請求書に記載しなければならない事項を13項目、条文に列挙した。
コンテナが引き取れる状態になった日。荷揚港。コンテナ番号。輸出ならば最も早い返却日。認められたフリータイムの日数。フリータイムの開始日。終了日。日額の根拠となる規則。適用される料率。合計金額。問い合わせや減免請求のための連絡先。料金がFMCの規則に沿っている旨の記述。そして——
A statement that the common carrier's performance did not cause or contribute to the underlying invoiced charges.
その料金の発生に、運送人自身の履行が寄与していないという記述。請求する側が、自分のせいではないと請求書に書かなければならない。
そして同じ条にもう一項ある。41104(f)、表題は Elimination of Charge Obligation。
Failure to include the information required under subsection (d) on an invoice with any demurrage or detention charge shall eliminate any obligation of the charged party to pay the applicable charge.
記載を欠いた請求書は、支払義務そのものを消滅させる。金額の妥当性を争わせるのではなく、書式の不備を無効の理由にした。立法としてはかなり強い作りである。
2024年、期限が決まった——請求先の限定は2025年に消えた
FMCはこれを受けて規則を作る。2024年2月26日に公表され、5月28日に発効した Demurrage and Detention Billing Requirements、46 CFR Part 541 である。
請求書を出せる相手が限定された(541.4)。
(1) The person for whose account the billing party provided ocean transportation or storage of cargo and who contracted with the billing party for the ocean transportation or storage of cargo; or (2) The consignee.
その運送または保管を自分の勘定で頼み、請求者と契約した者か、荷受人。そして両方に出すことはできず、それ以外の者にも出せない。混雑期には、契約関係のないトラック事業者に請求書が回ることが問題になっていた。
ただしこの条項は、いま効力を持たない。2024年4月に World Shipping Council が提訴し、2025年9月23日、コロンビア特別区連邦巡回控訴裁判所は541.4について、契約上の直接関係を根拠とする規則の内部の不整合を委員会が説明できていないとして、恣意的・専断的だと判断した。FMCは判決を受けて条文を削除し、2025年12月29日付の連邦官報で処理している。誰に請求できるかは、条文ではなく運用と紛争処理に戻された。ただし判決は、同じ方針を採ること自体を否定していない。裁判所は、支持する理由をより十分に説明するのであれば同じ方針を維持することもありうると述べており、委員会も将来の規則制定でこの論点を扱いうるとしている。条文は削除と留保(Removed and Reserved)の扱いで、番号だけが空いて残っている。
FMC自身が念を押しているとおり、541.4以外の規定はすべて有効である。残るものを順に見ていく。
まず、期限(541.7)。請求は料金の発生が終わった日から30暦日以内に出さなければならず、出さなければ請求された側は支払を要しない。NVOCCが請求を転嫁する場合は、受け取った請求書の発行日から30暦日以内。相手を間違えた場合の出し直しも、同じ30日の中である。
そして異議の窓(541.8)。請求された側には、請求書の発行日から少なくとも30暦日、減免や返金を求める機会が与えられ、請求した側はそれを30暦日以内に解決するよう努めなければならない。
期限が30日になった経緯もこの規則の議論に残っている。業界側の取り決めであるUniform Intermodal Interchange Agreementでは、請求書は60日以内に出すこととされていた。FMCはその60日で足りているかを問い、半分に切った。
請求書の記載内容そのものを定める541.6は、公布の時点では無期限に延期されていた。ペーパーワーク削減法に基づくOMBの承認待ちだったためで、2024年4月16日に承認が出て、FMCは5月14日の官報で、541.6と541.99を他の規定と同じ2024年5月28日に発効させると告知した。記載事項は、いま現に義務である。内容は、船荷証券番号、コンテナ番号、荷揚港、その相手に請求が向く理由、請求書の日付と支払期日、フリータイムの日数と開始日と終了日、コンテナが引き取れる状態になった日、輸出の最早返却日、課金された具体的な日付、合計金額、根拠となるタリフ規則と料率、問い合わせ先、そして——減免請求の方法を説明したページへ飛ぶURLかQRコード。
デマレージの請求書にQRコードを載せることを、規制の条文が求めている。1640年代に「船が止まっている状態」を指していた言葉の、現在地である。
数えているのは、いつも同じもの
四百年前、この言葉は船が動けないという事実を指していた。料金の意味は後から付いた。
止まっているものは、船から箱へ、そして箱が占めるターミナルの土地へと移った。誰が線を決めるかも移った。船主と傭船者の契約から、船社が公表するタリフへ。そして米国航路では、期限と記載事項を法律と規則が定めるところまで来ている。
その間、変わっていないものが一つある。期間の数え方が争点であって、単価はそうではないということだ。1640年代の傭船契約で決めていたのは何日までを運賃に含めるかであり、商法748条が定めているのは期間の起算と不可抗力の除外であり、2020年のFMC規則が問うたのは引き取れる状態だったのかであり、2024年の規則が定めたのは30日という期限である。
mora——遅れ。語源にある一語が、そのまま四百年分の争点だったことになる。
参照
- Online Etymology Dictionary, "demurrage"(1640年代/古フランス語 demorage /ラテン語 demorari)
- 商法(明治32年法律第48号)第748条、第752条
- 法務省「商法及び国際海上物品運送法の一部を改正する法律について」(平成30年法律第29号、2018年5月18日成立・5月25日公布、2019年4月1日施行)
- 46 CFR 545.5 Interpretation of Shipping Act of 1984—Unjust and unreasonable practices with respect to demurrage and detention(2020年5月18日発効)
- Federal Maritime Commission, Interpretive Rule on Demurrage and Detention Under the Shipping Act, 85 FR 29638(2020年5月18日)/提案 84 FR 48850(2019年9月17日)
- Federal Maritime Commission, Fact Finding Investigation No. 28(2018年3月5日開始、調査官 Rebecca F. Dye、2018年12月3日認定)/Coalition for Fair Port Practices 請願(FMC No. P4-16、2016年12月7日)
- Ocean Shipping Reform Act of 2022(2022年6月16日成立)/46 U.S.C. 41104(a)(15), (d), (f)
- 46 CFR Part 541 Demurrage and Detention(89 FR 14330、2024年2月26日公表、2024年5月28日発効。541.6・541.99も同日発効。541.4は2025年に取り消し)
- Federal Maritime Commission, 46 CFR 541.6 および 541.99 の発効告知(2024年5月14日、89 FR 41895。OMB承認は2024年4月16日)
- World Shipping Council v. Federal Maritime Commission, 152 F.4th 215(D.C. Cir. 2025、事件番号 No. 24-1088、2025年9月23日判決。46 CFR 541.4 を取り消し)
- Federal Maritime Commission, Demurrage and Detention Billing Requirements—Properly Issued Invoices Provision Set Aside by Court(90 FR 60579、2025年12月29日)
- Port of Los Angeles / Port of Long Beach, Container Excess Dwell Fee 関連リリース(2021年10月25日発表、10月29日承認、以後延期を継続。"Container Dwell Fee Program to end January 24" 2022年12月16日発表、2023年1月24日付で終了)