展示会に食品を持ち込む|「展示だけ」と「試食」で手続きが変わる
少量の展示用サンプルなら食品等輸入届出は要りません。ところが会場で試飲や試食を出すと決めた瞬間に必要になります。一方で動物検疫と植物検疫は用途を見ません。FOODEX JAPAN 2024でウクライナパビリオンの食品輸入を担当した経験から、動かない会期から逆算した実務を整理します。

2024年3月4日公開 / 2026年8月 全面改稿
この記事のもとになった文章は、2024年3月4日に書かれている。FOODEX JAPAN 2024の会期は3月5日から8日。つまり搬入日の当日である。
当時は「食は世界をつなぐ」という趣旨のことを書いた。それは今でもそう思っている。そのうえで、あの日の裏側で何が動いていたかも、書いておきたい。
食品は、他の展示品と同じようには日本に入らない。
そして面白いのは、その違いが外からはまったく見えないところだ。同じ木箱に詰めて、同じ船に載せて、同じ会場に運ぶ。見た目の作業は何も変わらない。変わるのは、書類と、時間である。
目次
- 「展示だけ」と「食べさせる」の間に線がある
- 食品等輸入届出書——誰が、どこへ、いつ
- 動物検疫と植物検疫は、用途を見ない
- 送る前に、当てる
- 逆算すると、締切は搬入日ではない
- 実際の現場から——ウクライナパビリオン、2024年3月
- 味が出せなくても、出る意味はある
- 余談:世界一のひまわり油は、日本に来ていない
「展示だけ」と「食べさせる」の間に線がある
食品衛生法は、販売の用に供し、または営業上使用する食品を輸入する者に、届出を求めている。裏を返せば、そこに当たらないものは対象外になる。
具体的にはこうなる。少量の個人用、展示用、試験研究用、装飾用、社内検討用のサンプル輸入であれば、食品等輸入届出書の提出は必要ない。
ところが、不特定多数に食用として配ったり販売したりする場合は、届出が必要になる。ジェトロの解説は、その例としてはっきり「飲食用として展示会でサンプル提供する」場合を挙げている。
ここが、この記事でいちばん伝えたい一点だ。
出展者の頭のなかで、展示と試食はひとつながりの行為である。ブースに商品を並べ、興味を持った来場者に味を見てもらう。当たり前の営業活動であって、そこに段差はない。
ところが制度の側から見ると、そこには段差がある。並べるだけなら届出は要らず、口に入れさせるなら要る。 同じ荷物、同じ会場、同じ四日間で、手続きの要否が変わる。
そして経験上、試食を出すかどうかが最終的に決まるのは、輸送の手配がとっくに終わったあとだ。主催者や現地の担当者と話しているうちに「せっかくだから味を見てもらおう」となる。その一言が出てくるブースは、たいてい当日も活気がある。ただ、その一言は手続きの側までさかのぼって効いてくる。
だから食品を扱うとき、私たちは最初に用途を聞く。並べるのか、食べさせるのか、その場で売るのか。荷物の中身より先に聞く。
食品等輸入届出書——誰が、どこへ、いつ
届出が必要だと決まったら、提出先は税関ではない。通関する場所を管轄する検疫所の食品監視課である。
添付するのは、原材料表、成分表、製造工程に関する説明といった書類だ。これらは輸出者、つまり海外の製造者側にしか作れない。日本側で埋められるものではないので、依頼してから戻ってくるまでの日数が、そのまま全体の日程に乗ってくる。
順序も押さえておきたい。食品等輸入届出済証が交付されてから、輸入申告になる。 通関の前段にもうひとつ関門があるということで、船が着いた日から数えて動く話ではない。
そして、審査だけで終わるものもあれば、検査に回るものもある。回った場合、結果が出るまで貨物は動かせない。ここが日程上いちばん読みにくいところで、正直なところ、私たちにも読み切れない。読み切れない前提で、余白を先に積んでおく。
冷蔵や冷凍の貨物であれば、待っている間も温度帯を保つ。待ち時間そのものにコストがかかり、賞味期限も進む。時間が費用と品質の両方に効いてくる貨物である。
動物検疫と植物検疫は、用途を見ない
ここから先は、食品衛生法とはまったく別の顔をしている。
食品衛生法の届出は、用途によって要否が変わった。ところが動物検疫と植物検疫には、その分岐がない。
肉製品や乳製品のような指定検疫物を輸入するには、家畜伝染病予防法第37条に基づいて、輸出国の政府機関が発行した検査証明書の添付が必要になる。Health Certificate、あるいは Veterinary Certificate と呼ばれる書類である。サンプル品を含む商用貨物であっても、この要求は消えない。
植物のほうも同じ構えだ。生鮮の果実や野菜、穀類、豆類などを輸入する場合、輸出国の政府機関が発行した植物検疫証明書が要る。英語では Phytosanitary Certificate という。そして輸入した者は、遅滞なく植物防疫所に届け出て、植物防疫官の検査を受けなければならない。
さらに国と品目の組み合わせによっては、そもそも輸入が禁止されている。偶蹄類の肉製品などは代表例で、これは書類を揃えれば通る話ではない。
つまり、「展示するだけです」は動物検疫には通じない。 食品衛生法の側では有効だった説明が、こちらでは効かない。守っている対象が違うからで、片方は日本人の口に入るものを、もう片方は日本の家畜と農地を見ている。目的が違えば線の引き方も違う、というだけの話である。
なお、輸入禁止品であっても、試験研究や展示に使う目的であれば農林水産大臣の許可を得て認められる場合がある。ただしこれは商業展示が当然に使える枠ではなく、可否を持っているのは当局の側だ。
証明書は輸出国側で取るものなので、貨物と一緒に日本へ来てもらうことになる。食品の仕事は、貨物が動き出す前にいちばん濃い時間がある。
送る前に、当てる
ここまで書いてきた要否の判定を、机の上で完結させることはできない。品目、原材料、製造工程、輸出国。組み合わせは無数にあり、条文を読んだだけでは白黒がつかない領域が必ず残る。
だから実務では、貨物を送り出す前に、検疫所に当てる。
聞くことは二つだ。
ひとつは、そもそも入るのか。輸入できる見込みが高いのか低いのか。禁止の組み合わせを踏んでいないか。証明書は何が要るのか。
もうひとつは、会期に間に合うのか。検査に回った場合にどれくらいかかりうるのか。今から手配して、搬入日に届く算段が立つのか。
この二つを先に当てておくと、答えが出る。間に合う形で入れられるのか、入れられないのか。入れられるとしても、どういう条件付きなら入れられるのか。
そして重要なのは、この照会は貨物が動く前でなければ意味がないということだ。船が出てしまえば、答えが何であっても打つ手が減る。証明書は輸出国でしか取れず、輸出国の書類は貨物と一緒に旅立ってしまっている。
出展者からすれば、まだ荷物も固まっていない段階で品目リストを求められるのは、順番が逆に感じられると思う。それでも先に聞く。先に聞けたぶんだけ、選べる道が残る。
そしてもうひとつ。この照会は、通関士に投げて終わりにしないほうがいい。
書式の確認だけなら任せればいい。ただ実際に聞きたいのは書式ではなく、「この品目を、この時期に、この用途で持ち込みたいのだが、どうか」という相談である。品目の背景も、会期という締切も、ブースで何をしたいのかも、知っている人間が話したほうが早い。
だから担当者自身も検疫所に電話する。 手続きの代理人としてではなく、その荷物の事情を全部わかっている人間として話す。返ってくる答えの具体性が、それで変わる。
逆算すると、締切は搬入日ではない
展示会物流のすべてがここに集約される。
FOODEX JAPAN 2024でいえば、会期は3月5日から8日、搬入は3月4日だった。会場の搬入は時間指定で動く。一日ずれたら翌日にどうぞ、という世界ではない。
そして会期は動かない。3月4日に間に合わなかった荷物は、四日間ずっと会場に存在しない。 遅れて着いた貨物に価値が残らないという点で、展示会の輸送は通常の貿易とまったく性質が違う。在庫として寝かせておくことができない。
だから逆算する。搬入日から、国内輸送、通関、輸入申告、届出済証の交付、検査に回った場合の待ち時間、動植物検疫、そして輸出国での証明書取得まで、順にさかのぼっていく。
さかのぼった先にある本当の締切は、たいてい輸出国で書類の依頼をかける日である。船積みの日ではない。ましてや搬入日ではない。
この逆算を出展者側で組める人は、そう多くない。組めなくて当然だと思う。だから私たちは、荷物の話より先に日付の話をする。
実際の現場から——ウクライナパビリオン、2024年3月
FOODEX JAPAN 2024は第49回、東京ビッグサイトで開かれた。世界68カ国・地域から2,879社・3,913小間という規模である。
そこに、ウクライナ支援パビリオンが出ていた。東3ホールのE3-L16。壁一面に、青と黄色のひまわりが描かれていた。
私たちはそのパビリオンに並べる食品の輸入について、ヘルプとして呼ばれた。パビリオンそのものを運営していたのは私たちではない。担当したのは、運ぶところである。
この仕事について、当時の文章では「使命」と書いた。力んだ言葉だが、そう書きたくなる現場だったのは確かで、今も取り消す気はない。
物流の会社にできるのは、預かった荷物を、決められた日に、決められた場所へ届けることだけだ。どこの国から来た荷物であっても、手続きの中身は変わっても、仕事の姿勢は変わらない。
普通の人が普通に働いて、作ったものを人に見せて、それで暮らしが成り立つこと。展示会というのは、たぶんそのためにある場所だ。
そのうえで、実務の話をする。あの案件で効いてきたのは、志ではなく日付のほうだった。
相談をいただいた時点で、会期までの日数は長くなかった。会期は3月5日、搬入は3月4日である。食品の輸入手続きにとって、そこから逆算できる余白は多くない。
これは誰かの落ち度ではない。海外パビリオンというものは、出展が決まってから会期までがそもそも短い。参加国が固まり、出展者が決まり、何を並べるかが決まって、ようやく荷物の話になる。そこまでの各段階には各段階の事情があって、どれも縮められない。話が私たちのところへ来るのは、構造的にいちばん最後である。逆にいえば、この仕事はいつも最終区間を任される仕事で、そこはやりがいのあるところでもある。
だからまず、送る前に当てた。日本側の通関士を通じて検疫所に照会をかけ、品目ごとに輸入できる見込みと、会期に間に合うかどうかを確認していった。私自身も検疫所に電話をかけて聞いている。荷物の事情を全部知っているのはこちらだったので、そのほうが話が早かった。
そのうえで選んだのは、会場では試飲や試食をしないという前提で、展示用として持ち込む形だった。
食の展示会に来て味を見てもらえないのだから、出展者としては当然、惜しい。この手の案件では「展示会なんだから食べさせなくてどうするんだ」という声が必ず出る。まったくもっともだと思う。
ただ、飲食用として提供するなら食品等輸入届出が要る。届出が要るなら検査に回る可能性を織り込むことになり、そこから逆算した準備期間は、その時点で残っていた時間を超えていた。味を取るか、現物が会場に並ぶことを取るか。 選べるのはどちらか一方だった。
そして、現物が並ぶことには十分な価値がある。ウクライナの食品が、日本の会場に、実際に届いて、そこにある。来場者はそれを手に取って、写真を撮って、担当者と話ができる。商談はそこから始まる。届かなければゼロだが、届けば商機になる。 棚に現物が並んで、その横で話が始まるところまで持っていけたのは、よかったと思っている。
振り返って、あの案件でいちばん厳しかったのは日数だった。それでも、品目ごとに当てて、通る形を見つけて、搬入日に間に合わせることはできた。急な相談で、余白も少なくて、それでも会期に間に合った。この仕事でいちばん嬉しいのは、たぶんそこだ。
そして、時間に余裕のある案件なら、味を出すところまで含めて組める。検疫という、こちらの努力では短縮できない時間が挟まるぶん、余白はそのまま選べる道の数になる。時間は、そのために使う。
味が出せなくても、出る意味はある
国のパビリオンには、日本の展示会に初めて出る人が多い。国や支援機関が出展を取りまとめ、参加企業を募る。集まった企業の多くにとっては、初めての日本である。
そういう場では、食品等輸入届出まで手が回っていないケースは、おそらく珍しくない。誤解のないように書いておくと、それ自体は何も問題ではない。展示するだけなら、そもそも届出は要らない。 要らない代わりに、会場で口に入れてもらうことができない、というだけである。
では、味が出せない出展に意味がないのか。まったくそんなことはないと思っている。
パッケージには色があり、文字があり、質感がある。そしてそれを作っている人、扱っている人が、商品の横に立っている。来場者が足を止め、手に取り、質問をする。バイヤーが名刺を出す。日本の展示会でそのやりとりが起きること自体に、価値がある。
商売としての決着は、そのあとから来る。初めての出展で完結する話ではないし、完結させる必要もない。まず来て、並べて、話をする。そこで手応えがあったなら、次は時間をかけて、日本の制度に合った形で持ち込めばいい。届出も検疫も、必要になったときに間に合う日程で組めばいい。
順番はそれでいいと思う。全部を揃えようとして出られないより、出られるやり方で出たほうがいい。
余談:世界一のひまわり油は、日本に来ていない
あのブースの壁には、大きなひまわりが描かれていた。ウクライナの国花だから、と説明されれば納得する。ただ、あれは観賞用の花ではない。
ウクライナは、ひまわり油の生産量でも輸出量でも世界一の国である。 畑一面のひまわりは風景ではなく、油を搾るための作物なのだ。
では、日本のスーパーにウクライナのひまわり油が並んでいるかというと、並んでいない。日本の植物油の供給量に占めるひまわり油の割合は、2011年の時点で0.6パーセントだった。世界では1割近くを占める油が、日本ではほとんど流通していない。
理由は、戦後の食用油の歴史にある。カナダから安価な菜種油が大量に入ってきて、日本の食用油は菜種・パーム・大豆で固まった。棚が先に埋まっていたのである。ひまわり油が劣っていたわけではなく、単に席が残っていなかった。
ところが、面白いのはここからだ。
日本人は、ウクライナのものをずいぶん前から食べている。
とうもろこしである。日本は年に1,500万トン前後のとうもろこしを輸入していて、その多くは飼料用だ。豚や鶏や牛がそれを食べ、豚肉になり、卵になり、牛乳になって、私たちの食卓に出てくる。そしてウクライナは長らく、その主要な供給元のひとつだった。
油は台所に届かなかったが、とうもろこしは家畜を一回経由して、とっくに日本人の口に入っていたわけである。
つまり、FOODEXでウクライナの食品を初めて見た、と思った来場者も、実はずっと前からウクライナを食べていた。輸入というのは、たいていそういう形で先に届いている。 ただ、名前が見えないだけだ。
そう考えると、展示会というのは妙な場所だと思う。ふだんは名前を伏せたまま流れているものが、あの数日だけ、名前と顔をつけて棚に並ぶ。壁にひまわりを描いて、「これはうちの国のものです」と言う。
私たちの仕事は普段、その名前が見えない側にある。だからこそ、名前と顔が出る数日のために運ぶのは、いい仕事だと思っている。
おわりに
食品の展示会は、歩いているだけで楽しい。世界中の味が一か所に集まり、来場者は異国の食文化のあいだを渡り歩いていく。2024年に書いた文章で言いたかったのは、そういうことだった。
そして、その楽しさが成立している裏側では、並んでいる商品の一つひとつについて、誰かが検疫所と税関と輸出国の当局を順番に片づけている。食品は、他の展示品より一段だけ余計に時間を要求する。 その一段を最初に見込んでおけば、あとは間に合う。
搬入日の朝、棚に現物が並んで、作った人がその横に立っている。そこまで運べた日の会場は、こちらから見てもいい眺めだ。
あの案件は、時間のない状態で声をかけてもらった仕事だった。それでも間に合って、ウクライナの食品は日本の会場に並んだ。呼んでもらえてよかったと、今でも思っている。
参照
- 食品衛生法(食品等輸入届出/販売の用に供し、または営業上使用する食品の輸入)
- ジェトロ 貿易・投資相談Q&A「食品等輸入届出書の概要と提出先・提出方法等:日本」
- 家畜伝染病予防法第37条(指定検疫物の輸入と検査証明書)/農林水産省 動物検疫所
- 植物防疫法(植物検疫証明書・輸入植物検疫)/農林水産省 植物防疫所
- 日本能率協会 FOODEX JAPAN 2024 開催概要(2024年3月5日〜8日/東京ビッグサイト)
- 農林水産省「ウクライナの農林水産業概況」/日本のとうもろこし輸入と飼料用の内訳
- 日本植物油協会ほか 植物油をめぐる動向(日本の植物油供給量に占めるひまわり油の割合)