EORI番号とは|EUが事業者に一つの番号を配るまでと、それが二つに割れた日
EU域内のどこで通関しても通用する事業者の番号。だが2009年まで、番号は国ごとにばらばらだった。きっかけは2005年4月13日のセキュリティ改正で、入港前・出港前の申告とAEOを回すために、事業者を一意に指す鍵が必要になった。「1事業者に1つ」という原則が、2021年にGBとXIへ割れるまで。
2024年3月18日公開 / 2026年10月 全面改稿
EORI番号は、EUで税関手続をする事業者に付与される番号である。Economic Operators Registration and Identification の頭文字を取っている。
性格を一行で言うと、こうなる。1事業者につき、ある時点で有効な番号はひとつだけ。 そしてその番号は、EU加盟国のどこで通関しても通用する。
この「ひとつだけ」が成立したのは2009年である。それ以前、番号は国ごとに別々だった。何がそれを統一させたのかというと、関税の話ではなく、安全保障の話だった。
目次
- ドイツの「税関番号」を置き換えたもの
- 2005年4月13日、セキュリティ改正
- 同じ年、WCOがSAFEフレームワークを採択している
- 事前に申告させるには、誰なのかが要る
- 2009年7月1日
- 番号の作り方
- 2021年、ひとつだったものが割れた
- EU域外の事業者はどうなるのか
- 番号は、制度の要求から生まれる
ドイツの「税関番号」を置き換えたもの
EORIが何を置き換えたのかは、ドイツ税関の説明が端的である。
The EORI number (Economic Operators' Registration and Identification number) is an operator identification number that is valid throughout the European Union and replaces the German customs number.
EU全域で通用する事業者識別番号であり、ドイツの税関番号を置き換えるものである、と。
ドイツにはドイツの番号があった。英国には TURN(Trader's Unique Reference Number)があった。加盟国がそれぞれ自国の事業者に番号を振っていて、隣の国から見れば意味のない番号だった。
関税同盟であり、域内の国境で通関をしない共同体でありながら、事業者を指す番号は各国の中で閉じていた。これが2009年まで続く。
2005年4月13日、セキュリティ改正
統一の直接のきっかけは、2005年4月13日の規則である。
Regulation (EC) No 648/2005。共同体関税法典(Regulation (EEC) No 2913/92)を改正するもので、通称はセキュリティ改正(Security Amendment)という。
この改正が持ち込んだものは、大きく三つある。
ひとつはAEO(Authorised Economic Operator、認定事業者)の制度。一定の基準を満たすと認定され、税関手続で便宜を受けられる。
ふたつめは事前情報である。貨物がEUに入る前に提出する入港前申告(Entry Summary Declaration、ENS)と、出る前に提出する出港前申告(Exit Summary Declaration、EXS)。
みっつめはリスク管理の枠組み。事前に出された情報を使って、どの貨物を見るかを機械的に絞り込む仕組みである。
関税を取るための改正ではない。貨物が着く前に危険を見分けるための改正だった。
同じ年、WCOがSAFEフレームワークを採択している
EUだけの動きではなかった。2005年、世界税関機構(WCO)がSAFEフレームワークを採択している。
内容は驚くほど似ている。事業者との連携の枠組みとしてのAEO、そしてリスク評価のために事前の貨物情報を提出させること。
2001年の米国同時多発テロのあと、国際物流の世界では「貨物が着いてから調べるのでは遅い」という考え方が一気に広がった。港に着いた箱を開けて中を見る、という順序では、危険物はもう港に入っている。だから着く前に情報を出させ、着く前に選別する。
EUのセキュリティ改正も、WCOのSAFEフレームワークも、この転換を制度にしたものである。
事前に申告させるには、誰なのかが要る
ここでEORIの必然が出てくる。
事前申告の仕組みは、情報を出した者が誰なのかを特定できなければ機能しない。リスク管理も同じである。過去の申告と今回の申告が同じ事業者のものかどうかが分からなければ、履歴に基づく判断ができない。
しかも、EUに入る貨物は加盟国のどこからでも入る。ハンブルクに入った荷物とロッテルダムに入った荷物が同じ事業者のものだと分からなければ、EU全体としてのリスク管理にならない。
各国が自国の中でだけ通用する番号を振っている状態は、この仕組みと両立しない。
セキュリティ改正の実施規定は Regulation (EC) No 1875/2006 で整えられ、そのうえで、事業者番号を統一するための規則が置かれた。Commission Regulation (EC) No 312/2009、2009年4月16日採択である。
2009年7月1日
312/2009 の適用開始日が、2009年7月1日。この日からEORI制度が動き出した。
英国のTURNも、ドイツの税関番号も、他の加盟国の番号も、EORIに置き換えられていく。以後、EU内で税関申告や出入港の概要申告をするときに使うのはこの番号である。
そして原則が置かれた。ある時点において、1事業者に割り当てられる有効なEORI番号はひとつだけである。
EU域内に所在する事業者は、自分の所在国の税関当局からEORIを取得する。取得した番号はEU全域で通用する。ドイツで取った番号をポーランドの税関に出しても通る。
番号の作り方
構造は単純である。仕様の書き方では a2an..15 となる。
先頭の2文字が国コードで、ISOの2文字コード(ISO 3166)を使う。ドイツならDE、フランスならFR。この2文字が、どの加盟国が登録した番号かを示す。
そのあとに英数字が続き、全体で最大15文字である。国コードの後ろの部分をどう作るかは、登録した国に委ねられている。
HSコードのように桁ごとに分類の意味が埋め込まれているわけではない。番号から読み取れるのは登録国だけで、あとは一意であること以外に意味を持たない。DUNS番号と同じ設計思想である。
2021年、ひとつだったものが割れた
「1事業者に1つ」という原則に、Brexitが例外を作った。
2021年1月1日、英国はEUの関税同盟から離脱する。英国の事業者が持っていた GB で始まるEORI番号は、EUの番号ではなくなった。EUで通関するなら、EU加盟国で別にEORIを取ることになる。
さらに、北アイルランドの扱いが加わる。北アイルランド議定書のもとで、北アイルランドは物品について特別な位置に置かれた。そこで生まれたのが XI で始まるEORI番号である。
XIは国コードではない。ISO 3166のユーザー割当領域を使った符号で、北アイルランドを指すために作られた。北アイルランドと非EU諸国との間で貨物を動かす、北アイルランドで申告する、北アイルランドで税関の決定を受ける——こうした場合にXIのEORIが要る。
そして、XIを取るには先にGBのEORIを持っている必要があった。HMRCは、GBのEORIを持っていてXIも必要と判断した事業者に対し、2020年12月半ばに自動で番号を送っている。
北アイルランドで事業をする、あるいは北アイルランドと取引する事業者は、GBとXIの両方を持つことになった。EUでも通関するなら、そこにEU加盟国のEORIが加わる。
1事業者に1つ、という原則を作ってから12年で、同じ事業者が三つ持つ場面ができている。番号の設計が壊れたのではなく、番号が前提にしていた境界のほうが動いた。
EU域外の事業者はどうなるのか
EORIはEU域内の事業者だけのものではない。
EU域外に所在する事業者でも、EUで税関申告や概要申告を自ら行う場合にはEORI番号が必要になる。取得の窓口は、最初に手続を行う加盟国の税関当局である。
逆に言えば、EUの取引先が輸入者として自分の番号で通関するなら、日本側がEORIを持つ必要は生じない。誰が申告者になるかで、誰の番号が要るかが決まる。EORIは会社の属性ではなく、申告という行為に紐づく番号である。
この構造は、日本の輸出入者符号と同じ形をしている。申告の画面に入る番号であり、申告をしない者には要らない。
ただし、申告者であっても番号を求められない場面がある。展示会がそのひとつである。EU域外の事業者が、一時輸入手続に付すための申告と、その手続を終えるための再輸出の申告をするときは、EORIの登録は要らない(委任規則 (EU) 2015/2446 第5条1項(a)(ii))。欧州委員会のEORIガイダンス(2023年8月30日付)は、ATAカルネの名義人であるEU域外の事業者はこの手続のためにEORIを申請しなくてよいとし、ATAカルネで一時輸入するカナダの事業者を例に挙げている。この例外には、共通保証管理システムの利用に登録が必要な場合は除く、という但し書きが付く。
番号は、制度の要求から生まれる
EORI番号の成り立ちを並べると、こうなる。
2001年以降、貨物が着いてから調べるのでは遅いという考え方が広がった。2005年、WCOがSAFEフレームワークを採択し、EUがセキュリティ改正でAEOと事前申告とリスク管理を持ち込んだ。事前に情報を出させる仕組みは、出した者を一意に特定できなければ動かない。だから2009年、加盟国ごとにばらばらだった事業者番号が、EU全域で通用するひとつの番号に置き換えられた。
2021年、その番号が前提にしていた境界が動いたとき、番号のほうが分裂した。
15文字の先頭2文字は、いまもどの当局が登録したかを示している。この2文字が指しているのは国ではなく、その事業者を登録した税関当局の管轄である。XIという、国ではない符号が先頭に来られるのは、そのためである。
ここに書いた規則の内容は、2026年10月時点で確認したものである。EUの関税規則は改正が多く、参照した条文やガイダンスにその後の改正が反映されていない可能性がある。実際の手続の前には、必ず最新の条文と各国税関の案内をご自身でご確認いただきたい。
参照
- Regulation (EC) No 648/2005 of the European Parliament and of the Council of 13 April 2005(共同体関税法典 Regulation (EEC) No 2913/92 の改正。通称セキュリティ改正。AEO、入港前申告(ENS)・出港前申告(EXS)、リスク管理の枠組み)
- Commission Regulation (EC) No 1875/2006(セキュリティ改正の実施規定)
- Commission Regulation (EC) No 312/2009(2009年4月16日採択、2009年7月1日適用。EORI制度)
- World Customs Organization, SAFE Framework of Standards(2005年採択。AEOと事前貨物情報によるリスク評価)
- Zoll(ドイツ税関)"EORI number"(EU全域で有効な事業者識別番号であり、ドイツの税関番号を置き換える。税関申告および出入港の概要申告で使用。Regulation (EC) No 312/2009 により2009年7月1日から義務化)
- European Commission, Taxation and Customs Union, EORI(番号の形式は
a2an..15。先頭2文字はISO 3166のアルファ2国コード、全体で最大15文字。ある時点で1事業者に有効なEORI番号はひとつ) - Commission Delegated Regulation (EU) 2015/2446 第5条(EU域外に所在する事業者の登録義務と、その例外。1項(a)(ii)が一時輸入手続の申告と再輸出の申告)
- European Commission, DG TAXUD, EORI Guidance document(2023年8月30日付。ATA・CPDカルネの名義人であるEU域外の事業者は、一時輸入と再輸出の申告のためにEORIを申請する必要がない。例としてATAカルネを使うカナダの事業者)
- 英国 TURN(Trader's Unique Reference Number)からEORIへの移行
- European Commission, "Guidance on the Use of GB and XI codes"(北アイルランド議定書に伴うXI符号の扱い)/HMRC(2021年1月1日以降のGB・XI EORI、2020年12月半ばの自動発行)