海上運送状(ウェイビル)とは|船荷証券が本船に追い越されてできた書類

「ウェイビルとは船荷証券のこと」と説明されることがあるが、逆である。船荷証券は1794年の英国判決で「紙が荷物そのもの」になった有価証券で、だから原本と引換えでなければ荷物は渡らない。船が速くなり書類が追い越された結果、その性質を外した書類が必要になった。1990年のCMI統一規則、1992年に英国が捨てた1855年の法律、2018年に日本の商法へ入った条文、そして紙をやめる話まで。

2024年6月26日公開 / 2026年9月 全面改稿

海上運送状(Sea Waybill)を「船荷証券の一種」あるいは「船荷証券の日本語訳」と説明している文章を見かけることがある。

順序が逆である。海上運送状は、船荷証券が持っている性質を外すために作られた書類だ。外された性質が何で、なぜ外す必要が生じたのかは、日付で追える。始まりは1794年のロンドンで、いま現在も決着していない。

目次

  1. 最初は、船長の覚え書きだった
  2. 1794年、紙が荷物になった
  3. 二百年前の揉め事の形が、日本の商法にそのまま残っている
  4. 船が、書類を追い越した
  5. 1990年6月29日、パリ
  6. 1992年、英国は1855年の法律を捨てた
  7. 2018年、日本の商法に「海上運送状」の節ができた
  8. 二つの書類は、条文の上で互いを排除している
  9. 記名式でも動いてしまう——2005年の貴族院
  10. 航空には、この問題が最初から無かった
  11. 紙をやめる話

最初は、船長の覚え書きだった

船荷証券の原型は、証券ではなかった。

荷物を船に積んだという事実を、船側が書き留めた記録である。誰の荷物を、何個、どこで積んだか。荷主が自分で船に乗り、荷物に付き添って売りに行っていた時代には、それで足りた。荷物と荷主が同じ船に乗っているのだから、誰が受け取るかで揉めようがない。

荷主が船に乗らなくなったとき、この記録の役目が変わる。積んだ側と受け取る側が別の人間になり、両者は同じ場所にいない。そこで、積んだ事実を書いた紙が、荷物より先に相手の手元へ渡るようになった。

ここまでは受取証である。問題は次に起きた。航海の途中で、その荷物を別の誰かに売りたくなったらどうするか。

1794年、紙が荷物になった

英国の裁判所が答えを出した事件がある。リックバロウ対メイソン(Lickbarrow v Mason)。1787年から争われ、1794年に決着した。

売主が代金を受け取らないまま荷物を船積みし、買主に船荷証券を裏書して渡した。買主はそれをさらに第三者(リックバロウ)へ譲り、荷物が到着する前に破産する。売主は、まだ航海中なのだから荷物を差し止められるはずだと主張した。運送途中の差止め(stoppage in transitu)である。

裁判所は認めなかった。証券がすでに対価を伴って善意の第三者へ裏書譲渡されていた以上、売主はもう荷物を止められない。

理由として持ち出されたのは、法律の条文ではない。商人の慣習(custom of merchants)だった。商人たちは、船荷証券を荷物そのものの象徴として扱ってきた。裁判所はその慣習を認定し、船荷証券は譲渡可能で流通性を持つ権利証券(document of title)である、とした。

この判決から、船荷証券の三つの性質が出てくる。積んだことの証拠であり、運送契約の証拠であり、そして荷物を受け取る権利そのものを表す紙である。紙を持っている人が荷物の権利者であり、紙を渡すことが荷物を渡すことになる。

航海中の荷物を売買できるようになった。穀物や石油のように、船が着く前に何度も転売される商品が成立したのは、この性質があったからである。

二百年前の揉め事の形が、日本の商法にそのまま残っている

1794年に確定した仕組みは、いま日本の商法の条文になっている。

まず、紙を渡すことが荷物を渡すことになる、という部分。第763条。

船荷証券により運送品を受け取ることができる者に船荷証券を引き渡したときは、その引渡しは、運送品について行使する権利の取得に関しては、運送品の引渡しと同一の効力を有する。

そして、紙がなければ荷物は出ない、という部分。第764条。

船荷証券が作成されたときは、これと引換えでなければ、運送品の引渡しを請求することができない。

受戻証券性と呼ばれる性質である。証券を回収しなければ荷物を渡さない。これがなければ、紙を持っていることに意味がなくなる。

興味深いのは、その次に並んでいる条文だ。第765条と第766条は、同じ荷物について船荷証券が複数枚出回っている状態を、前提として書いている。

陸揚港においては、運送人は、数通の船荷証券のうち一通の所持人が運送品の引渡しを請求したときであっても、その引渡しを拒むことができない。

陸揚港外においては、運送人は、船荷証券の全部の返還を受けなければ、運送品の引渡しをすることができない。

二人以上の船荷証券の所持人がある場合において、その一人が他の所持人より先に運送人から運送品の引渡しを受けたときは、当該他の所持人の船荷証券は、その効力を失う。

複数の人間が、同じ荷物について「自分が権利者だ」と紙を持って現れうる。そのときどうするかを、法律が先回りして決めている。リックバロウ対メイソンで争われたのと同じ構図である。紙を荷物と同じ扱いにした以上、紙の枚数だけ権利者が現れる可能性が生まれた。二百年前の揉め事の形が、条文の並びとして保存されている。

船が、書類を追い越した

この仕組みには、前提がひとつある。荷物より書類のほうが先に着くことだ。

書類は銀行を経由する。信用状取引なら、売主が船積み後に書類を銀行へ持ち込み、買取銀行から発行銀行へ、発行銀行から買主へと渡っていく。何行かを経由し、書類の点検があり、郵送の時間がかかる。

帆船や低速の貨物船が相手なら、この経路でも間に合った。船が速くなり、航路が短くなると、間に合わなくなる。

この事態を、日本政府の担当者が国会で説明している。2018年5月17日、参議院法務委員会。法務省民事局長の小野瀬厚の答弁である。

現代では、船舶の高速化によりまして、船舶が到達港に到着したときに船荷証券の方が荷受人に届いていないと、こういう事態が生じまして、一九九〇年代以降、貿易実務ではこの受け戻し証券性を有しない海上運送状の利用が拡大して、既に幅広い取引で利用されるに至っております。

船が到着しても、船荷証券が荷受人に届いていない。

このとき何が起きるか。第764条のとおり、証券と引換えでなければ荷物は渡せない。船は着いている。荷物はターミナルにある。紙だけがまだ銀行のどこかにある。荷物は動かず、保管の料金だけが積み上がる。フリータイムを過ぎればデマレージが始まる。

紙が荷物と同じ価値を持つという仕組みが、そのまま荷物を止める仕組みになった。近距離の航路ほど深刻で、だから対策は短い航路から広がっていった。

1990年6月29日、パリ

業界側が先に答えを出している。

万国海法会(Comité Maritime International、CMI)は、1897年に設立された海事法の統一を目的とする民間の国際団体である。その第34回国際会議がパリで開かれ、1990年6月29日、海上運送状統一規則(CMI Uniform Rules for Sea Waybills)が採択された。

条約ではない。批准も発効もなく、当事者が運送契約に取り込むことで効力を持つ任意規則である。それでも、この規則が定義した書類の形が、そのまま実務の標準になった。

中身の骨格は単純で、船荷証券から流通性を取り除いたものだ。証券ではないので裏書で譲渡できない。荷受人は最初から名前で特定されている。そして引渡しの場面がこうなる。運送人は、荷受人であることを本人確認によって確かめて荷物を渡せば、義務を果たしたことになる。紙の提示を待たない。

原本を回収しないのだから、船が着いた時点で荷物は出せる。船荷証券が抱えた問題は、その性質を使わないと決めることで消える。

代わりに失われるものもはっきりしている。航海中の転売ができない。担保に取れない。銀行が紙を握って代金の回収を確保する、という方法が使えない。だからこの書類は、売主と買主の関係が安定している取引、たとえば本支店間や、長く続いている取引先との間から広がった。

1992年、英国は1855年の法律を捨てた

法律の側も追いかける。

英国には船荷証券法(Bills of Lading Act 1855)があった。この法律の下では、荷受人が運送人を訴えられるかどうかが、船荷証券の譲渡によって荷物の所有権が移ったかどうかに結びついていた。所有権が別の経路で移っていたり、そもそも移っていなかったりすると、契約の当事者でない者は訴えられない。

英国法律委員会とスコットランド法律委員会が1991年に報告書を出し、1855年法はもはや商取引の要求を満たしておらず、商慣行にも合っていないと結論づけた。

これを受けて成立したのが海上物品運送法(Carriage of Goods by Sea Act 1992)である。1992年7月16日に裁可され、同年9月16日に施行された。所有権と切り離し、船荷証券の適法な所持人に、運送契約の当事者であったかのような出訴権を与えた。

そしてこの法律は、船荷証券だけを対象にしていない。海上運送状と荷渡指図書も、条文の対象に入れた。 1990年のCMI規則の2年後に、英国の法律が海上運送状を正面から扱う書類として認めたことになる。

2018年、日本の商法に「海上運送状」の節ができた

日本でこれが条文になるのは、さらに26年後である。

商法及び国際海上物品運送法の一部を改正する法律(平成30年法律第29号)。2018年5月18日成立、5月25日公布、2019年4月1日施行。法務省の説明によれば、商法の運送・海商法制は1899年の制定以来、実質的な見直しがほとんどされていなかった。

この改正で、商法第三編第三章に節がひとつ増えている。第四節「海上運送状」、第770条である。

運送人又は船長は、荷送人又は傭船者の請求により、運送品の船積み後遅滞なく、船積みがあった旨を記載した海上運送状を交付しなければならない。

先に引いた国会答弁は、この規定を設けた趣旨を問われたものだった。1990年代以降すでに幅広く使われている書類について、規律を明確にするために規定を置く。条文が実務を作ったのではなく、実務が四半世紀ほど先行していて、法律が後から形を与えている。

同じ答弁で、もうひとつ触れられていることがある。電子化である。第770条第3項。

第一項の運送人又は船長は、海上運送状の交付に代えて、法務省令で定めるところにより、荷送人又は傭船者の承諾を得て、海上運送状に記載すべき事項を電磁的方法により提供することができる。この場合において、当該運送人又は船長は、海上運送状を交付したものとみなす。

海上運送状は、2019年の時点ですでに電子メールでの提供が法律上認められていた。権利を表章していないからである。この差が、次の話に効いてくる。

二つの書類は、条文の上で互いを排除している

商法の作りで目を引くのは、船荷証券と海上運送状が互いを打ち消す形で書かれていることだ。

海上運送状の側、第770条第4項。

前三項の規定は、運送品について現に船荷証券が交付されているときは、適用しない。

船荷証券の側、第757条第3項。

前二項の規定は、運送品について現に海上運送状が交付されているときは、適用しない。

同じ運送品について、両方は出ない。どちらか一方である。二つは並立する選択肢ではなく、片方を出したらもう片方は出ないという関係で条文に置かれている。

記名式でも動いてしまう——2005年の貴族院

ここで、混同されやすい書類がもうひとつ出てくる。荷受人の名前を書いた船荷証券、いわゆるストレートB/Lである。

名前で特定されているのだから海上運送状と同じではないか、という疑問が当然出る。答えは出ている。

まず日本の商法第762条。

船荷証券は、記名式であるときであっても、裏書によって、譲渡し、又は質権の目的とすることができる。ただし、船荷証券に裏書を禁止する旨を記載したときは、この限りでない。

記名式でも、裏書禁止と書いていない限り、裏書で動く。

英国でも同じ問いが最高裁まで行った。J I MacWilliam Co Inc 対 Mediterranean Shipping Co SA、通称ザ・ラファエラ・エス。2005年2月16日、貴族院が全員一致で、ストレートB/Lはヘーグ・ヴィスビー・ルールにいう「船荷証券その他これに類する権利証券」に当たると判断した。問題の書類には、引渡しに際して提示を求める条項が明記されていた。

つまり、荷受人の名前が書いてあることと、海上運送状であることは別である。名前が書いてあっても船荷証券は船荷証券で、原本を回収しなければ荷物は出ない。書類の題名と、その書類が持つ性質は、一致しているとは限らない。

航空には、この問題が最初から無かった

海が二百年かけて抱えた問題を、航空は最初から持っていない。

1929年のワルソー条約は、航空運送状(当時の呼称は航空貨物運送状)を三通の原本で作ると定めた。一通は運送人用、一通は荷受人用で荷物とともに運ばれ、一通は荷送人が署名を受けて保持する。荷受人は最初から名前で指定される。

流通性については、興味深い経緯がある。1955年のヘーグ議定書が、条約にこういう一項を追加した。

Nothing in this Convention prevents the issue of a negotiable air waybill.

流通性のある航空運送状を発行することを、この条約は妨げない。可能性の扉だけは開けておいた、という規定である。

そしてこの一項は、1975年のモントリオール第4議定書の本文から削除され、1999年のモントリオール条約には引き継がれなかった。航空では、流通する運送書類という発想が、20年ほど扉を開けたまま置かれ、そのまま閉じられている。

理由は速さである。飛行機が着くまでの間に荷物を転売する必要がない。書類が荷物を追い越せないほど輸送が速いのだから、書類を荷物の代わりに流通させる動機そのものが生まれなかった。海が船荷証券から流通性を外しに行ったのと、同じ力が働いている。

紙をやめる話

残された問題は、船荷証券の電子化である。

海上運送状は2019年の時点で電磁的方法による提供が認められていた。船荷証券はそうならなかった。第763条と第764条が示すとおり、この紙は権利そのものを表しており、その紙を「持っている」「渡した」という状態を、電子的にどう再現するかが解けていなかったからである。

国際的な答えは2017年に出た。UNCITRAL(国連国際商取引法委員会)が採択した電子的移転可能記録モデル法(MLETR)である。紙の占有に相当する状態を「支配(control)」という概念で置き換え、機能的等価と技術中立を原則に据えた。

最初に本格的に国内法へ落としたのは英国だった。電子取引文書法(Electronic Trade Documents Act 2023)が2023年9月20日に施行され、電子形式の船荷証券、為替手形、約束手形などを紙の原本と法的に同等に扱うと定めた。裁可から施行まで二か月である。

日本でも作業は進んでいる。2021年4月に商事法務研究会で研究会が立ち上がり、2022年2月14日に法務大臣から法制審議会へ諮問(第121号)が発せられ、法制審議会商法(船荷証券等関係)部会が2022年4月27日から16回にわたり審議した。2024年8月21日に要綱案がまとまり、2024年9月9日、法制審議会総会が原案どおり決定して法務大臣に答申している。

要綱が用意した言葉は「電子船荷証券記録」である。紙の占有や所持に代わる概念として「電子船荷証券記録の支配」を、交付や引渡しに代わる概念として「電子船荷証券記録の提供」を、裏書に代わる概念として「電子裏書」を置く。MLETRと同じ設計思想で、紙の動きを一つずつ電子の状態に読み替えている。

参議院の調査室が2026年3月に出した資料では、船荷証券のデジタル化は民事法制の「主な課題」として、答申までの経緯と要綱の概要が説明されている。

二つの書類の距離

海上運送状が生まれた経緯をまとめると、こうなる。

1794年、商人の慣習を裁判所が認定して、紙が荷物そのものになった。航海中の転売ができるようになり、その代わり、紙がなければ荷物は出なくなった。船が速くなって紙が追い越されると、この仕組みは荷物を港に縛る仕組みに変わった。1990年に業界が流通性を外した書類の規則を作り、1992年に英国の法律がそれを認め、2018年に日本の商法が条文を置いた。

そしていま、船荷証券の側を電子化する作業が続いている。2017年のモデル法、2023年の英国法、2024年の日本の答申。狙っているのは、紙を持っているという状態を電子的に再現することだ。

海上運送状は、権利を紙に乗せないことで速さの問題を解いた書類である。電子船荷証券記録は、権利を乗せたまま紙をやめることで同じ問題を解こうとしている。二百三十年前に一枚の紙へ押し込まれた「証拠」と「契約」と「権利」を、どう分けるか、あるいはどう運ぶか。答えは、まだ一つに収束していない。


参照

  • Lickbarrow v Mason (1787) 2 T.R. 63、(1794) 5 T.R. 683(英国。船荷証券が商人の慣習により譲渡可能な権利証券であるとされた事件。運送途中の差止めとの関係)
  • 商法(明治32年法律第48号)第757条、第758条、第762条、第763条、第764条、第765条、第766条、第770条
  • 商法及び国際海上物品運送法の一部を改正する法律(平成30年法律第29号、2018年5月18日成立・5月25日公布、2019年4月1日施行)。商法第三編第三章第四節「海上運送状」の新設
  • 第196回国会 参議院法務委員会 2018年5月17日 若松謙維 質疑・法務省民事局長 小野瀬厚 答弁(船舶の高速化により船荷証券が荷受人に届かない事態、1990年代以降の海上運送状の拡大、電磁的方法による提供)
  • Comité Maritime International, CMI Uniform Rules for Sea Waybills(第34回国際会議、パリ、1990年6月29日採択)
  • Carriage of Goods by Sea Act 1992(英国。1992年7月16日裁可、9月16日施行。Bills of Lading Act 1855 を置き換え、海上運送状と荷渡指図書を対象に含める)/England and Wales Law Commission・Scottish Law Commission 1991年報告
  • J I MacWilliam Co Inc v Mediterranean Shipping Co SA (The Rafaela S) [2005] UKHL 11(2005年2月16日。ストレートB/Lはヘーグ・ヴィスビー・ルールにいう権利証券に当たる)
  • Convention for the Unification of Certain Rules relating to International Carriage by Air(ワルソー条約、1929年)航空運送状の三通の原本/ヘーグ議定書(1955年)第15条第3項の追加と、モントリオール第4議定書(1975年)での削除/モントリオール条約(1999年)
  • UNCITRAL Model Law on Electronic Transferable Records(MLETR、2017年採択)
  • Electronic Trade Documents Act 2023(英国、2023年9月20日施行)
  • 法制審議会「商法(船荷証券等関係)等の改正に関する要綱」(第200回会議、2024年9月9日答申。諮問第121号は2022年2月14日)
  • 参議院常任委員会調査室・特別調査室『立法と調査』2026年3月 No.482「法務及び司法行政に関する主な課題」(船荷証券のデジタル化の経緯と要綱の概要)

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佐々木 慎 / 株式会社パシフィック

2004年から国際展示会の物流に携わっています。

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