IMDGコードとは|39年間ずっと「勧告」だった規則が、2004年に強制になるまで

海上で危険物を運ぶときの国際規則。1965年に採択されてから2004年まで、これは守らなくても条約違反ではなかった。タイタニック後のSOLAS条約、1956年に国連が作った9つのクラス、そして2002年5月24日の二つの決議。日本側の危険物船舶運送及び貯蔵規則が1957年の省令であることまで。

2025年1月9日公開 / 2026年10月 全面改稿

IMDGコードは、海上で危険物を運ぶときの国際的な規則である。International Maritime Dangerous Goods Code、国際海上危険物規程。分類、容器、表示、積付け、隔離まで、何をどう積むかがここに書かれている。

意外なのは、この規則が長いあいだ守らなくても条約違反ではなかったことである。1965年に採択され、強制力を持ったのは2004年1月1日。39年かかっている。

なぜそんなに時間がかかったのか、そして何が変えたのかは、日付で追える。

目次

  1. タイタニックから始まっている
  2. 1956年、国連が9つのクラスを作った
  3. 1965年、勧告として採択される
  4. 39年間、勧告だった
  5. 2002年5月24日、二つの決議
  6. 2年ごとに書き換わる
  7. 改正はどこから来るのか
  8. 日本側は1957年の省令
  9. 勧告が条約になるということ

タイタニックから始まっている

IMDGコードが乗っている土台は、海上人命安全条約(SOLAS)である。

最初のSOLASは1914年に採択された。きっかけは1912年のタイタニック号の沈没である。救命艇の数、無線の当直、氷の警報。事故で失われた命の数が、条約の条文になった。

その後、1929年、1948年、1960年、1974年と作り直されている。いま使われているのは1974年版で、以後は改正を積み重ねている。

この条約を管理する組織が国際海事機関(IMO)である。1948年に設立条約が採択され、1958年に発効、翌1959年に第1回総会が開かれた。当初の名称は政府間海事協議機関(IMCO)で、IMOになるのは1982年である。

危険物の話は、SOLAS条約の第VII章に置かれている。「危険物の運送」という章である。

1956年、国連が9つのクラスを作った

もうひとつの土台は、海の外にある。

1956年、国連経済社会理事会(ECOSOC)が「危険物輸送に関する勧告」の最初の版を出した。表紙の色からオレンジブックと呼ばれている。作っているのは危険物輸送専門家小委員会である。

ここで決まったのが、いま海でも空でも陸でも使われている9つのクラスである。火薬類、ガス、引火性液体、可燃性固体、酸化性物質、毒物・感染性物質、放射性物質、腐食性物質、その他。クラスの下に区分(ディビジョン)があり、容器等級(パッキンググループ)がある。

オレンジブック自体には法的な拘束力がない。各国政府と、輸送モードごとの国際機関に向けて示された勧告である。海はIMDGコード、空はICAOの技術指針とIATAの規則、欧州の陸はADRとRID。モードごとの規則が、同じ国連の分類を土台にしているという構造になっている。

同じ荷物がクラス3の引火性液体なら、船でも飛行機でもクラス3である。モードが変われば積み方も書類も変わるが、分類の出発点は共通している。

1965年、勧告として採択される

海の規則は、そのあとに来る。

1960年の海上人命安全条約の会議で、危険物の輸送について各国が共通して使える規則を作るべきだという方向が固まった。伝えられているところでは、そのとき採択された決議は、包装、コンテナによる輸送、そして積付け——とりわけ危険物どうしの隔離——を扱うべきだとしていた。

コンテナという言葉が入っているのが目を引く。1960年といえば、海上コンテナが本格的に広がる直前である。箱に何を一緒に入れるかという問題が、このときすでに見えていた。

そしてIMOの説明によれば、コードはこうなった。

initially adopted in 1965 as a recommendatory instrument

1965年に、勧告として採択された。

39年間、勧告だった

勧告であるというのは、条約上の義務ではないということである。

各国がそれぞれの国内法でどこまで取り込むかは、各国の判断に委ねられていた。実務上は広く使われていたが、IMDGコードに従わなかったこと自体がSOLAS条約の違反になるわけではない。

海運は、船籍も荷主も乗組員も複数の国にまたがる。ある港では厳格に運用され、別の港では緩い、という状態が生じうる。危険物は、そのばらつきが事故として現れる分野である。

この構造が39年続いた。

2002年5月24日、二つの決議

変わったのは2002年である。IMOの海上安全委員会(MSC)が、同じ日に二つの決議を採択した。

決議 MSC.122(75) が、IMDGコードそのものを採択した。

決議 MSC.123(75) が、SOLAS条約第VII章を改正した。コードの規定を条約のもとで強制にするための改正である。

どちらも2002年5月24日の採択で、発効は2004年1月1日。この日から、IMDGコードに従うことがSOLAS条約上の義務になった。

勧告を条約に書き込むのではなく、条約の側に「このコードに従え」という条文を置く。コードの中身は2年ごとに書き換わるので、条約本体に全部書くわけにいかない。条約が外部の文書を指し示し、その文書が独立して改正されていく形である。

2年ごとに書き換わる

IMOの説明では、改正は2年周期で行われる。

Amendments to the IMDG Code are made (E&T Group) on a two-year cycle.

E&T Group は Editorial and Technical Group、編集技術グループである。

このため、IMDGコードには版の番号が付く。第40回改正、第41回改正、というように、改正の回数で版を呼ぶ。新しい版が強制になる日と、古い版を使い続けてよい移行期間があり、そのどちらもコードの中に書かれている。

規則の側に「この規則はいつから強制か」が書いてある、という作りになっている。

改正はどこから来るのか

IMOは、改正の出どころを二つ挙げている。

proposals submitted directly to IMO by Member Governments and amendments required to take account of changes to the United Nations Recommendations on the Transport of Dangerous Goods which sets the basic requirements for all the transport modes

ひとつは加盟国政府からIMOへの直接の提案。もうひとつは、国連の危険物輸送勧告の変更を取り込むための改正である。

1956年のオレンジブックが、いまも上流にある。国連の専門家小委員会が2年ごとに勧告を改訂し、それが海のIMDGコード、空のICAO技術指針、陸のADRへ流れていく。リチウム電池のように新しい品目が現れると、まず国連の勧告で分類と条件が決まり、そのあと各モードの規則に落ちてくる。

上流で決まったものが、下流の規則に時間差で届く。この二段構えは、HSコードの改正が各国の関税率表に落ちていく形とよく似ている。

日本側は1957年の省令

日本では、この分野は危険物船舶運送及び貯蔵規則が担っている。通称、危規則。

法令番号は昭和32年運輸省令第30号。1957年である。IMDGコードが採択される8年前、国連のオレンジブックの翌年にあたる。

根拠は船舶安全法で、省令という形式をとっている。省令であることには理由がある。分類や容器の条件は技術的で、しかも2年ごとに上流が動く。法律本体で書けば、改正のたびに国会を通すことになる。

条約が外部のコードを指し示し、日本の法律が省令に委ね、その省令が国際的な規則の改正に追随する。三段階で、技術的な細目を動かしやすい場所に置いている。

勧告が条約になるということ

IMDGコードの成り立ちを並べると、こうなる。

1912年の沈没から1914年のSOLASが生まれ、1956年に国連が9つのクラスを作り、1960年の会議で海の規則を作ることが決まり、1965年に勧告として採択された。そして2002年5月24日の二つの決議を経て、2004年1月1日に条約上の義務になった。

採択から強制まで39年。 その間、この規則は「従うのが当然だが、従わなくても条約違反ではないもの」として存在していた。

39年というのは、規則の中身が定まらなかった期間ではない。中身はその間も使われていた。定まらなかったのは、それを守らせる仕組みのほうである。

海上の危険物規則が、書かれた内容ではなく、書かれた内容をどう強制するかで四十年近く揺れていた。2004年1月1日は、その決着がついた日である。


参照

  • International Maritime Organization, "The International Maritime Dangerous Goods (IMDG) Code"(1965年に勧告として採択。改正は編集技術グループ(E&T Group)による2年周期。改正の源は加盟国政府からの提案と、国連の危険物輸送勧告の変更への対応)
  • 決議 MSC.122(75)(2002年5月24日採択。IMDGコードの採択)
  • 決議 MSC.123(75)(2002年5月24日採択。SOLAS条約第VII章の改正によりIMDGコードを強制化。発効 2004年1月1日)
  • 国際海上人命安全条約(SOLAS)1914年の最初の採択とタイタニック号沈没(1912年)/1974年版と以後の改正/第VII章「危険物の運送」
  • 国際海事機関(IMO)1948年の設立条約採択、1958年発効、1959年第1回総会、1982年にIMCOから改称
  • United Nations Recommendations on the Transport of Dangerous Goods(通称オレンジブック。最初の版は1956年、国連経済社会理事会(ECOSOC)の危険物輸送専門家小委員会が作成。9つのクラス、区分、容器等級。法的拘束力を持たず、各国政府と各輸送モードの国際機関に向けた勧告)
  • 危険物船舶運送及び貯蔵規則(昭和32年運輸省令第30号)

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佐々木 慎 / 株式会社パシフィック

2004年から国際展示会の物流に携わっています。

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