LSS(低硫黄サーチャージ)とは|請求される理由とBAF・EBSの違い

LSSは船社が自主的に設定するサーチャージで、IMOが義務付けたものではありません。始まりも2020年ではなく2015年です。BAF・EBSとの違い、どの区間で請求されるか、EU ETSやFuelEUで何が増えているかまで実務目線で整理します。

2025年1月29日公開 / 2026年7月 全面改稿

海上運賃の見積書には、アルファベットの略号が並ぶ。LSS、BAF、EBS、そして最近ではETS。それぞれ何を意味していて、どれが自分の負担になるのか。

この記事では、LSSを入口にして、この一群のサーチャージをどう読むかを整理する。

LSSとは何か

LSS(Low Sulphur Surcharge)は、硫黄分の少ない船舶燃料への切り替えによって生じるコスト増を、基本運賃とは別建てで回収するために船社が設定するサーチャージである。

ここで先に押さえておきたい点がある。

LSSは、IMOが徴収を義務付けているものではない。 IMOが規制しているのは燃料の硫黄分であって、その費用を誰がどう負担するかではない。規制対応でコストが上がった、だから運賃とは別枠で回収する——そう決めたのは各船社である。

だから名称も、計算方法も、改定のタイミングも、船社ごとに違う。ここが混乱の元になる。

よくある誤解:「2020年から始まった」ではない

LSSを2020年のグローバル硫黄キャップ(0.50%)だけで説明している解説をよく見かける。実際には、規制コストはそれ以前から発生していた。

時系列で見るとこうなる。

時期規制
1997年採択/2005年発効最初のECA(バルト海)が設定される
2010年7月〜2014年末ECA内の硫黄分上限は1.00%
2015年1月1日ECA内の上限が0.10%へ引き下げ
2016年〜中国が独自の排出規制海域(DECA)を段階的に導入
2020年1月1日全世界で0.50%のグローバルキャップ
2025年5月1日地中海がECAに追加(現在5海域)

注目すべきは2015年である。ECA内の上限が1.00%から0.10%へ一気に下がった。北米、米カリブ、北海、バルト海を通る船は、この時点で高価な低硫黄燃料を使わざるを得なくなっている。

そして中国のDECA。これは国内法によるもので、IMOのECAとは別枠だ。2016年に珠江デルタ・長江デルタ・渤海湾で始まり、2019年には沿岸全域で0.5%、2020年には長江・西江の内陸水域で0.1%、2022年には海南島周辺へと広がった。

アジア航路でLSSを頻繁に目にする背景には、この中国の独自規制がある。「グローバル規制だから一律」ではなく、航路によって事情が違うのはそのためだ。

LSS・BAF・EBSは同じ家族

見積書に並ぶ燃料関連のサーチャージには、いくつもの名前がある。

  • LSS:低硫黄燃料への切替コスト
  • BAF(Bunker Adjustment Factor):燃料価格変動の調整
  • EBS(Emergency Bunker Surcharge):燃料価格の急騰時に臨時で設定

理屈の上では守備範囲が違うが、実務上は重なる。船社によってはLSSをBAFの算式に統合していて、LSSという項目自体が存在しないこともある。

だから、名前で判断してはいけない。同じ航路で2社の見積を比べるときは、項目名ではなく合計額で見る。 一方にLSSがなく他方にあるからといって、安いとは限らない。統合されているだけかもしれない。

実務で本当に問題になるのは「どこで請求されるか」

金額そのものより揉めるのは、負担者と請求場所である。

運賃込みか、別建てか。 「オールインだと思っていた」というのが最も多いトラブルだ。見積を受け取ったら、LSSやBAFが含まれているかを必ず文面で確認する。口頭の「込みです」は、後で証拠にならない。

仕出地か、仕向地か。 LSSは仕出地のローカルチャージとして請求される場合もあれば、運賃の構成要素として扱われる場合もある。請求場所が変われば、負担者も変わりうる。

Prepaid か Collect か。 誰が払うかは、この指定と、貿易条件(インコタームズ)の組み合わせで決まる。FOBで出したつもりが、仕向地で予想外の請求が立つことがある。

有効期限。 燃料調整系のサーチャージは定期的に改定される。見積の有効期限を過ぎると、金額が変わる前提だと考えたほうがいい。長期の展示会案件では、ここが特に効く。

いま増えているのは、LSSではない

正直に言えば、2026年現在、請求書に新しく現れているのはLSSではなく環境規制関連のサーチャージである。

EU ETS(EU排出量取引制度)は海運セクターに適用されており、段階的に対象比率が上がってきた。2026年は、2025年排出分の70%を償却する年であり、同時に2026年排出分からは100%適用へ移行する。

FuelEU Maritimeは2025年1月1日から適用が始まった。船舶が使う燃料のGHG強度を規制するもので、2020年基準値に対して2025年は2%削減、2030年に6%、2050年には80%と、段階的に厳しくなる。2026年は最初の検証・罰金の年にあたり、1月末までに前年分を報告し、6月末までに適合証書の受領または罰金の支払いが行われる。

欧州航路を使うなら、これらのコストが何らかの形で運賃に乗ってくる。項目名は船社ごとにまちまちなので、見慣れない略号が増えたら、まず何の規制に紐づくのかを聞くのが正しい対応になる。

一方、IMOのほうは止まっている

ここが2026年時点で最も重要な点かもしれない。

IMOは「ネットゼロ枠組み」という、GHG強度規制と排出への価格付けを組み合わせた仕組みを準備してきた。2025年4月のMEPC 83で内容が承認され、同年10月の臨時会合で正式採択される予定だった。

ところが、採択されなかった。

2025年10月の臨時会合で加盟国の意見が割れ、1年間の休会が多数決で決まった。2026年4月末から5月初めのMEPC 84では会期間作業部会の設置が決まり、9月と11月の中間会合を経て、11月末から12月のMEPC 85へ議論が持ち越されている。発効するとしても、早くて2028年3月以降になる見通しだ。

つまり、規制が来ることは分かっているが、いつ、いくらで来るかが決まっていない。

荷主にとって、これは単なるニュースではない。数年先の輸送コストが読めないということであり、長期契約や複数年にわたる展示会の予算組みに直接効いてくる。

規制が決まらないこと自体が、コストの不確実性になっている。 これが今の状況である。

実務としての構え

不確実性が前提なら、やることは決まってくる。

見積には有効期限を明記する。 サーチャージ改定時の取り扱いも書いておく。

オールイン見積は、範囲を限定する。 「本見積に含まれるのは以下の項目のみ」と列挙し、それ以外の新設サーチャージは別途とする一文を入れる。

複数年案件では改定条項を入れる。 隔年開催の展示会などは、次回に規制が変わっている可能性が十分ある。

船社の告知に目を通す。 サーチャージの新設・改定は事前に告知されるのが通例だ。請求書で初めて知る、という状態は避けたい。

まとめ

LSSは、低硫黄燃料への切り替えコストを回収するために船社が自主的に設定したサーチャージである。規制の起点は2020年ではなく、2015年のECA強化と、その後の中国独自規制まで遡る。

そして今、燃料由来のサーチャージから環境規制由来のサーチャージへと、重心が移りつつある。EU側は動き出し、IMO側は止まっている。この非対称な状態が、当面続く。

見積書の略号は増える一方だが、見るべきことは変わらない。何の費用で、どこで請求され、誰が負担し、いつまで有効なのか。 この4点を確認する習慣があれば、名前が増えても対応できる。


参照

  • IMO「IMO approves net-zero regulations for global shipping」(MEPC 83)/ネットゼロ枠組みFAQ
  • MEPC 84(2026年4月27日〜5月1日)関連報道
  • MARPOL条約附属書VI/ECA関連資料
  • 中国DECA関連資料
  • ClassNK 海運EU-ETS/FuelEU Maritime 対応FAQ
  • 欧州委員会 FuelEU Maritime 関連情報

※ サーチャージの設定・金額・名称は船社ごとに異なり、随時改定されます。個別の案件については必ず船社またはフォワーダーへご確認ください。

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佐々木 慎 / 株式会社パシフィック

2004年から国際展示会の物流に携わっています。

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